あなたは怖い話は好きですか?
老若男女、一度は聞いたり話したりなど、怪談に触れる機会はあるのではないでしょうか。
そんな中でも「未来の怖い話」は舞台としてはメジャーと言えるでしょう。
今回紹介する未来シリーズは「タイムカプセル」です。
夜中に読むのはおすすめしません。何故なら、眠れなくなっても責任は取れませんから•••
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
他の怪談も気になるという方は、下記の記事を参照ください。
【未来シリーズ】「タイムカプセル」
桜の花が咲き始める、冬の終わりを告げるこの季節。
身を切るような風が吹く季節外れの寒風と同じように、まだ目が覚めていない蕾を横目に僕らは歩を進める。
そういえば20年前も同じように寝坊助の木が多かった。3人で囲んだ桜の木もほとんど芽吹いてはいなかった。
あの頃は何も考えず無邪気に遊んでたっけ。
「20年後の君へ」なんて心を弾ませながら未来に想いを馳せるなんてロマンティックなことも、恥ずかしげや戸惑いもなくやることができた。
もう何を書いたのか覚えてはいない。
きっと「未来の自分は何になれているんだろう」「何を手に入れてるんだろう」
そんなところだろう。
過去では未来に思いを馳せ、未来では過去を偲ぶ。
まるで、出会いと別れの季節の象徴である桜の木と同じだ。
ところで春一番はどこいった?
20年前の卒業の日、小学校の裏山にある桜の木の下に僕達3人は希望を埋めた。
今思えば、そんな小っ恥ずかしいことを億劫にも感じることがなく行えていたことに少し驚きはする。
誰が言い出したのかも忘れた。弟のA男だったかな。
そして20年後なんて遠い設定にしなくてもいいのに。簡単に•••5年後とか?10年後?だったら3人揃って開けることができただろうに。
今は5年前に結婚して僕の妻になったA美と一緒に絶賛掘削作業中だ。
寒空の中、大の大人2人がスコップを持って穴を掘る、こんなシュールな画があるだろうか。
そしてまた、2人が羽織っているコートも真っ黒ときたものだ。
最近のニュースによれば、「例年よりも暖かく、桜の開花も---」
とのことだが、お天気お姉さんも間違えることはあるだろう。そのせいで怪しさは急増しているわけだが。
ほんと、春一番どこいった?
この時期は俗に言う「出会いと別れの季節」だそうだ。卒業式・入学式が同シーズンにあるからだろう。そして、この季節の象徴とも言えるのが「桜」だ。
だが、僕は世間に問いたい。何故「桜」なのかと。
卒業式も入学式も桜のイメージが強く印象付いてはいるが、考えてみて欲しい。
卒業式に桜は咲き誇っているだろうか。
毎年の開花時期は違うが、大体九州の方で3月下旬から咲き始めるそうだ。卒業式は場所には寄るが、3月上旬から中旬にかけてと言ったところか。
咲き始めてもいないじゃないか。
入学式はまだわかる。満開ではないにしろ桜の花は確実に卒業式に比べて多いのだから。
開花状況だけじゃない。
卒業式は別れのイメージだろう。そこから咲き始める桜•••
入学式は出会いのイメージだろう。そこから今後散っていくであろう桜•••
合わなくないか?印象操作だと強く叫びたい。どうせなら、入学式に咲き始めて、卒業式に散り始めるような桜を品種改良してもらいたいものだ。
なんて考えながら掘削作業を進めていくと、スコップから硬いものに触れた感触が伝わってくる。
キャリーケースだ。
「懐かしいね」と僕はA美に話しかける。
当時、何に入れて埋めようかと議題に挙がったとき、僕ら兄弟が真っ先に思い当たったのがこのキャリーケースだ。
もちろん、お菓子の箱とか子どもらしい物も思いつきはしたが耐久性に難があるのではと却下になった。
A美も何かないかと考えてはくれていたが、同じ洋服を毎日着ている様子を見ると難しそうだった。それにこれ以上の選択肢もないだろう。
家族で旅行の時によく使っていたのだが、両親、兄弟合わせて4人分の荷物が難なく収納可能という大容量。何でも像が踏んでも大丈夫らしい。
勝手に持ち出しては怒られるのではないかとヒヤヒヤしたが、結果、怒られることはなく次のシーズンには何食わぬ顔で家族の荷物を運ぶ新入りと対面することになった。
物に頓着がない、と言えばあまり重大な欠点のように感じないが、子どもながらに言いようのない違和感を感じたのを覚えている。
だが、そんな違和感も日が経つにつれ忘れていった。このキャリーケースと共に。
なかなか作業が進まない。寒さに手が悴み作業が難航しているためだろう。
A男が生きていれば3人で作業できてこんなに苦労することはなかっただろうな。
A男は僕の弟だった。弟と言っても双子の先に取り上げられたかどうかで決まっただけであり、そこまで兄弟としての上下関係のようなものはなかった。
そんなA男は3年前に他界している。両親と一緒に外出中に車の事故で崖から転落してしまった。
誰1人帰ってくることはなかった。
曲がりきれずにガードレールを突き抜けて崖に落ちてしまったらしい。
現場の状況から、ブレーキ痕は無かったため運転している父親が不調を起こしブレーキが間に合わなかったと判断された。
事件性は無く、父親も血圧が高かったり入退院も多かったから不思議はなかった。
でも•••何も全員逝かなくてもよかったのにな。
だからとは言わないが、傍で一緒にスコップを握ってくれるA美だけは離したくないと心の底から思っている。
そうこうしていると、キャリーケースの全体が顔を出す。
僕らは手を伸ばしキャリーケースを引き摺り出した。
思いの外軽かった。子どもの頃は重く、本当に大事なものを埋めている感覚になったのに。
肝心のキャリーケースの状態は•••特に欠損や脆くなっている様子もない。
当時の僕らの判断に賞賛を送りたい。
キャリーケースのジッパーに手を伸ばし20年来の想いを開く。
ジッパーは引っかかりもなくスムーズに開くことができた。
中に入っていたものは、人形やカードゲーム、独楽のおもちゃと3通の手紙だった。
人形はA美が大事にしていたぺこちゃんだった。カードゲームはA男、独楽のおもちゃは僕の物だ。
手紙だけでは寂しいので、定番である大事にている物を入れようと提案したのは僕だった。
懐かしさで胸が満たされる。20年の時を経てもそれほど劣化することはなく形を保っていることからキャリーケースの機密性には感嘆する。
僕は手紙を手に取った。
A男が書いた物ももちろんあり、故人の想いを盗み見るようで気が引けるのだが、文句を言われることもないので開けることにした。
「20年後の自分へ。20年後の俺は誰と結婚していますか?A美ですか?A美がお兄ちゃんと俺のどっちを選んだのか気になります。こそっと後で教えてください」
訳のわからないことを書いているのは何ともA男らしい。
他にも宇宙飛行士になれていますかなど書いてあったが、夜空の星になってしまったあたり夢は叶っているなと皮肉ながらも想いつつA美に問いかける。どっちを選んだの?
「あなたよ」
あまり感情が篭っていないように感じるが、深い愛情を内に秘めているのがA美の良いところだ。
次は僕の手紙を開く。
全く何を書いているのかを覚えていないので、どんなびっくりワードが飛び出てくるかドキドキしながら文面に目を通す。できれば1人で読みたいところだ。
「20年後の君へ。A男と一緒にどっちがA美と結婚するか喧嘩したのを覚えていますか?A男はいいやつで幸せになって欲しいけど、A美には僕を選んていて欲しいです」
そういればよく喧嘩してたな、と懐旧しつつそれがA美にバレたのが恥ずかしかった。照れを隠しつつA美に聞いてみる。どっちを選んだの?
「あなたよ」
結果がわかっている問いというのはかくも虚しいものか。
次はA美の手紙を開く。
当時のA男と僕の心境はこれで明るみになった。白日の元に晒されたというべきか。だが、A美がどう思っているかは気になる。他の男の名前が出た日には問い詰める所存だ。
「20年後の私へ。美味しいお料理を食べれていますか?綺麗なお洋服を着ていますか?不自由なく生活できていますか?ぺこちゃんを入れたこと後悔していませんか?大事なものはできましたか?次は何を入れますか?」
他にも女友達の名前が書かれてはいたが、別の男の名前が出なかったことに安堵した。20年前のA美のことを思えば、A美らいし文面と言えた。
A美に聞いてみる。大事なものはできた?
「あなたよ」
A美が即答してくれたことに思わずにやけてしまう。
次何入れるの?
「あなたよ」
A美の口角が上がった。それと同時に首元にまるで電撃でも喰らったかのような衝撃が走る。
一度途絶えた意識が戻ってきた時には、A美がスコップで土をかけている時だった。
「大事な物を入れるんでしょ」
そう儚げにA美が言っているのを聞いたのが僕の記憶の最後だ。
キャリーケースの中から。
まとめ
A美の家庭は貧しく、美味しい料理や、綺麗な洋風が手に入る環境に無かった
兄弟の家庭は裕福であり、そのため物に頓着は無かった
A美は欲しい物を手に入れ、大事な物をしまいこむ。両親やA男の事故は•••
以上で、【未来シリーズ】「タイムカプセル」を紹介※眠れなくても責任取れませんを終わります。
他にも、【未来シリーズ】「厳選4選!!」を紹介※眠れなくても責任取れません記事もあるので、興味がある方は是非ご一読ください。
コメント