あなたは怖い話は好きですか?
老若男女、一度は聞いたり話したりなど、怪談に触れる機会はあるのではないでしょうか。
そんな怪談の中でも「バス」は舞台としてはメジャーと言えるでしょう。
今回紹介するバスの怪談は「サラリーマン」です。
夜中に読むのはおすすめしません。何故なら、眠れなくなっても責任は取れませんから•••
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
他の怪談も気になるという方は、下記の記事を参照ください。
【バスの怪談】「サラリーマン」
特に代わり映えのしない憂鬱な朝。
「代わり映えのしない」とは言ったが、それはバスに乗るまでだけの短い間隙にすぎなかった。
朝から晩まで働き詰めの俺は、家を早くに出て帰ってくるのは日付が変わる、なんてこともしばしばあった。
家から出てバス停までの道のり、「何時間空いたんだ?」と仕事終わりに乗ったバスから今から乗るバスまで何時間間隔が空いてるのかと不毛なことを考えながら歩く。
眠くて頭は回らないが、流石にバス停に着くまでには答えが出た。
「5時間くらいか•••」と呟きながらバス停に設置されているベンチに腰を降ろす。
毎日こんな生活を送っていればいつかは身体を壊すだろう。倦怠感や吐き気なんかは日常茶飯事だ。特に今日はさっきから頭痛がひどい。それでも会社に向かう。サラリーマンの性なのだろうか。
あまり誇りたくはない。
そうこうしているうちにバスが到着した。俺は重い腰を上げバスに乗り込む。早い時間帯ではあるが、市街地に近いためほとんどの座席は埋まっていた。「8割くらいか」と頼りない目測を口にする。
目的のバス停までは20分ほどかかる。仕事の疲れが抜けていない不調の塊みたいな状態で立ったままバスに揺られるのは勘弁だ。
俺は後部の2人がけの長椅子へと足を運んだ。窓際にはすでに20代くらいの若者が薄手のコートを羽織りリュックを抱え景色を眺めていた。
軽く会釈をしつつも隣に座り目を閉じる。
聞こえてくるのは、バスの走行音、運転手と機会音声によるアナウンス、乗客の身を捩るような雑音、そして打楽器のようにうねりを上げて襲ってくる頭痛の音だ。
頭痛の音とは言ったが、正確に言えば血管を流れる血液の音だろう。低くも重く、一定の間隔で擦り上げるように流れてくる。
頭の中でここまで重低音を奏でられてはなかなか寝付けない。かと言ってリズムに乗りもしないのだが。
聴きたもないヘヴィメタに耳を寄せていると、隣の若者が窓の縁に設置されているボタンに手を伸ばしたのが衣ずれの音と座席からの振動で伝わってくる。
次、止まります
機会音声によるアナウンスが流れた。
若者が降りるということは、俺も一旦座席を立ち通路までの道を譲らなければならないということ。
億劫ではあるが、仕方ないと落とし込む。間が狭く、足も満足に伸ばせないのだから。
アナウンスが停車駅を告げるか否かのタイミングで若者が立ち上がる。
前に抱えていたリュックを片手を通し背中で背負う。それを見て俺も立ち上がり狭い隙間を少しでも広くできるよう努めようとした。その時•••
若者は俺の所作を感じ取れなかったのか、狭い隙間を無理矢理進んで通路へと出る。
あまりの勢いにリュックのベルト(腕を通す長さを調節できる物)は踊り狂い、俺の顔面を掠める。若者はそのままバスの前部の扉から出て行った。
あまりの出来事に呆気にとられた。
少しの間が空き、俺は冷静さを取り戻す。「またか•••」
よくいるだろ?ファミレスなんかで、1人だけコップやおしぼりを出されないような影の薄いやつ。
つまりは俺だ。地味な服装をしているだとか、動きが少ないだとか、主語がないだとか、髪が薄いだとか•••特筆すべき点が全くないのかと言えば嘘にはなるが何故か視界に止まりにくいらしい。
だとしても、これは視界に止まらないで説明がつくことか?
取り戻した冷静さも徐々に自分の元から離れていくのがわかった。
チンピラに絡まれ、その場は冷静に対処するも後に沸々と怒りが湧いてくるような感覚だ。
時が戻れば呼び止めて文句の一つも言えるのに、と思っていても一向に時は遡ることはなく進んでいくのみ。目的地のバス停までバスは進む。
若者が触れたボタンに自分が触れるのは嫌なので、通路側に設置されているボタンを押すことにする。バスも良く配慮されているものだ。
次、止まります
俺が押す前に他の乗客が押したのだろう。伸ばした手を引っ込める。
バス停に到着し扉が開く。バスの前部に乗っていた乗客が押したらしい。立ち上がりすぐにバスを出る。俺も慌てて立ち上がりバス前部の扉へ向かう。
ドラマでよくあるシーンに警察が自身の手帳を視認できるか否かの短い時間で相手にチラ見せするというものがあるが、それと同じ、いやそれより短い時間だった。右手で通勤定期を持ち運転手にチラ見せする。
チラ見せでは気づかなかったの、運転手は扉を閉めてしまう。
さっきの怒りが冷めきっていないこともあり、イラつきは隠し切れなかった。
俺はチラ見せではなく、運転手の視界遮るように定期を出し「開けろ」と言い放つ。
それでも運転手は気づいていない様子でハンドルに手をかける。
朝から脳内を不快な重低音が駆け巡っている中に、こびり付いた若者への怒り、終いには運転手による空気扱い。我慢の限界だった。
俺は左手を握りそのまま扉に叩きつけた。何度もだ。
「開けろ」「開けろ」「開けろ」
運転手は飛び跳ねるような仕草の後、俺に視線を写し青ざめていた。というか顔が引き攣っていた。
アナウンスも無く扉が空いた所は初めて見たかもしれない。俺は扉から出る。
あまりのイラつき、不調でそこからの記憶がない。そしてまたバスの中だ。
それからも同じように乗客や運転手に気付かれないことが何度もあった。
こんなに毎日社会のために働いているのになんて仕打ちだと考えているうちにウトウトしてしまう。
バスの営業所の中だろうか。気づいた時にはバスは見知らぬ場所で停車していた。
乗客がいるか確認しないのは職務怠慢すぎるだろうと思い顔を上げると、運転手が2人話している声が聞こえてきた。
「◯◯のバス停でくも膜下出血で一人亡くなったらしい」
俺の最寄りのバス停じゃないか。確かに最近寒くなってきたからな。そういった不調も無くはないか。俺も気をつけないと。
「それからじゃないか、扉を叩く音が聞こえたり、勝手に開いたりするようになったのは」
それは運営会社の管理問題だろう。乗客を無視したり、確認もせずにこんなところまで連れてきてしまうくらいだからな。
「くも膜下出血が死因だけど、どうやら過労が原因らしい」
•••
あぁ、俺か。
まとめ
若者や運転手が空気扱いしていたのは•••
乗客無視や扉の不具合は運営会社の管理問題ではなく•••
くも膜下出血はバットで殴られたような強い頭痛を感じることが特徴
以上で、【バスの怪談】「サラリーマン」を紹介※眠れなくても責任取れませんを終わります。
他にも、【バスの怪談】「厳選4選!!」を紹介※眠れなくても責任取れませんという記事もあるため、興味がある方はぜひご一読ください。
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