あなたは怖い話は好きですか?
老若男女、一度は見たり聞いたりなど、怖い話に触れる機会はあるのではないでしょうか。
そんな中でも「配信者の怖い話」は舞台としてはメジャーと言えるでしょう。
今回紹介する配信者の怖い話は「民意」です。
夜中に読むのはおすすめしません。
何故なら、眠れなくなっても責任は取れませんから•••
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
他の怖い話も気なるという方は、下記の記事を参照ください。
【怖い話】配信者の怖い話「民意」

案外ちょろかった。
画面の前で演じればいいだけだから。
ほんの少し、数時間、仮面を被ればいい。
たったそれだけだ。
まあ、ここまで上手くいったのも、俺の先見の明が優れていたおかげか。
誰にも真似できるのものじゃないんだ、先駆者になるっていうのはな。
そして大事なのは、競合がいないうちに強豪になるってことだ。
先駆者になれば、競合なんていないに等しい。
つまり、最初っから強豪になれるってわけだ。ほんの少しの努力はいるけどな。
あとはグミでもメントスでも使って適当にやってれば数字を稼げるってわけだ。
フォロワー、エンゲージメント、欲しい数字は右肩上がり。
ネットでは数字が全てだ。そして数字ってのは、いつだって民意なんだ。
だってそうだろ?
自分の意見が、他の人と一緒なら安心するだろ?
悩んだ時に、周りの意見に合わせたりするだろ?
よくわかんないけど、みんなが褒める音楽は聴いてみたりするだろ?
それを確認する為の数字だ。そして、だからこそ、その数字が民意と言える。
民意が広め、民意を集め、民意を育てる。
そしてこの民意が、俺にとっての武器になる。
俺に歯向かうやつは、民意を敵に回してるも同然だ。
どんなチンケな輩も徹底的に潰す。
俺の言葉が、俺の行動が、俺の態度が
民意を動かす。
俺はあるプラットフォームで、配信者として活動している。
10年くらい前にサービス開始となり、最初はそこまで認知度は高くなかったが、いつの間にか、知らない人がいない程に成長していた。
そして俺はサービス開始と同時、つまり10年以上の古参というわけだ。
最初はほんの数人程度しか活動していないかった。
いや、もしかしたらもっといたかも知れないが、どんどん増える活動者の影に埋もれていったんだろう。
いくら先駆者になれたと言っても、多少のセンスや努力はいる。
そして、そのセンスに恵まれた努力家の俺は、10年かけて、一躍不動の地位を築けていた。
まあ、確かに上を見上げれば靴底すらも視認できない程高みにいる奴もいる。
だけど、これから新しく始めるような奴には、負ける気がしない。
今の俺にはそれだけの数字があった。
そして、そんな俺にもとうとう有名事務所からスカウトの話が来ていた。
胸が高鳴ったね。
俺の存在に、やっと世界が気づいたのか、ってね。
俺は二つ返事で契約を結んだ。
これから俺の持つ数字が•••民意が、どれだけ膨らむのか想像するだけで興奮してしまう。
本社に近い方が仕事もやりやすいってことで、急ではあるが上京することにした。
何事も早い方が良い。
そうやって今の地位を築いたんだから。
早々に引っ越しの準備を進める。
場所は都心にしようとしたが、思ったより家賃が高いことに驚いた。
払えなくはないが•••一旦ワンクッション置くことにした。
都心から離れれば、家賃相場は少し落ち着いていた。
というか•••意外と郊外ともなれば東京感はないんだな•••
少し寂れたアパートの一室を借りた。
どこか、古びた一室で爪を研ぐ主人公•••みたいな心持ちになっていた。
ここから俺の新しい伝説が始まるんだ•••
事務所に入る、ということだけでものすごい後ろ盾ができた気がしていた。
まるで成功する未来が見えているようだった。
家具や家電は前の家から持ってきた。
買い替えようとも思ったが、それは次の機会に取っておいた。
水道、ガス、電気、その他必要な手続きも済ませたが•••
致命的なミスをしてしまった。
ネット回線が繋がっていない。
厳密に言えば、契約をしたのだが、開通するまでにまだ日にちがかかるらしい•••
頭に無かった。ここまでネットを繋げるのに日数がいるなんて•••
前はパパにやってもらってたからな•••
悔やんだって仕方がない。
それについては妙案が浮かんでいた。
そして、その妙案は容易に実行できてしまった。
隣の部屋の奴からWi-Fiを拝借した。
知り合いの配信者から、パスワードの取得方法を聞いて実践するだけだった。
ものの5分も要らずネット回線開通だ。
どうせ情弱な中年のおっさんが使ってるに違いない。
少しくらい拝借してもバレないだろう。
というか、有名な配信者に使ってもらって、寧ろ感謝の一つもされたいくらいだ。
そうして俺の快適な新生活が幕を開けた。
何一つ不自由なく生活できていた。
一点を除いては。
隣の奴がどうやら俺がWi-Fiを使っていることを勘付いたらしい。
この間、動画配信サービスを利用していた時に事は起こる。
映画を観ていた。ちょうど起承転結の「転」の時、急に画面が止まった。
最初は何が起こったのか分からず、モニターを叩いてみたりしていた•••
そしてすぐに原因が判明する。
Wi-Fiが止まっていた。
隣から奪っているWi-Fiが•••
使ってやっているWi-Fiが•••
止められていた。
頭に大量の血が昇るのを感じる。
俺は隣の部屋に聞こえるよう壁を蹴り、叫ぶ。
「どういうつもりだっ!!早くWi-Fi繋げろっ!!」
「何考えてんだっ!!映像止まってんじゃねぇかっ!!」
吐いても吐ききれない怒りが言葉として口から溢れてくる。
次から次へと罵詈雑言を浴びせていると、視界の端で映像が流れ出したのを捉えた。
俺は舌打ちしながらモニターの前へと座る。
内心、隣の奴への怒りは収まってはいないが、続きも気にある。
あれだけ怒鳴れば次はないだろう。
そう思っていた。
次の日。
今度は配信中に事件が起こった。
あろうことか、またモニターがボイコットを起こす。
首謀者は隣のWi-Fiだ。
連日犯行に及ぶとは良い度胸だ。
俺は壁を力ある限り蹴り飛ばす。
「今から行くから待ってろっ!!」
そうして隣の部屋の前まで行き扉を叩く。
何度も。しつこく。出てくるまで。
すると、部屋の中から一人の男が出てきた。
見た目は30代後半、髪は伸びきっており、手入れが行き届いていないことが明白な程、乾燥して畝っている。
無精髭はオプションのように備わっており、着ている衣類もよれており、印刷されていたであろう文字や絵も、ボロボロと禿げて何が何だかわからないものになっている。
予想通りの冴えない中年がそこにはいた。
俺は感情に身を任せ、奴を恫喝する。
奴は耳が聞こえていないのか、理解していないのか、「はぁ」とかなんとか生返事ばかり返してきやがる。
早くWi-Fiを繋ぎ直すこと、そして次やったら容赦しないことを伝え自分の部屋に戻る。
部屋に戻ると、モニターが動き始めるのが見えた。
俺は慌てて画面の前に座る。
コメント欄を確認すると、「どうした?」と心配する声が多い。
「Wi-Fiの調子が•••」と説明しつつ場を乗り切る。
奴への怒りが顔に出てしまっていないか不安だったが、どうやらモニター越しには伝わらなかったらしい。
一安心だ。
流石に次は•••ないだろう•••
そうはならなかった。
次の日。
またもや配信中にモニターがストライキを起こした。
どうやらWi-Fiの供給が絶たれたことに不満を感じたらしい。
俺は壁を力一杯殴りつける。
「とうとうやりやがったなっ!!」
奴の部屋に殴り込む。
扉を激しく叩いた。
のらりと奴は出てきた。
俺は奴の胸ぐらを掴み叫ぶ。
奴は感情がないのか、あまり表情が変化しない。
手を出す寸前まで感情は昂っていたが、奴の仏頂面を見てると毒気が抜かれた。
俺は奴の部屋を指差し、今すぐWi-Fiを繋げろと、昨日と同じ流れを繰り返す。
胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に振り外し、部屋まで戻った。
すると、モニターはストライキを止め、業務に戻っていた。
俺は一息つき、モニターの前に座る。
「いや、またWi-Fiが調子悪くて•••困るよな•••」
言いながらコメント欄に目を向ける。
大量のコメントで溢れていた。
目で追うことも困難な程に流れていく。
リスナーの数も普段の倍以上の数字を叩き出してはいたが、嬉しく無かった。
寧ろ心臓を誰かに掴まれているような不快感を感じた。
実際、内臓が押し上げられているような感覚がし、息苦しくもあった。
予感していた。
悪いことが起きていると。
そして、それは的中してしまう。
コメントは批判で溢れていた。
「そんな人だとは思わなかった」
何が起こってるんだ。
「ひどい。最低」
そんなこと言わないでくれ。
「暴力とか信じられない」
味方じゃ無かったのか。
「登録を解除します」
見捨てないでくれ。
「通報しました」
「通報しました」
「通報しました」
民意は、俺を裏切った。
チャンネルは俺の意思とは関係なく、運営により閉鎖されてしまう。
順調に伸びていたSNSのアカウントも、フォロワーは激減し、過去の投稿にまで批判コメントが乱立していた。
多分、俺が奴の部屋に行った後にすぐWi-Fiは繋がって、俺の叫び声が隣の部屋にある配信機器を通じてモニターの前のリスナーに届いてしまったんだろう•••
今まで築いていた地位が、数字が、民意が、俺から離れていく。
目に見えなくても、確実にあると思っていた物は、触れることが叶わず、簡単に手から零れ落ちていった。
信じていた物が、信用していた物が、信頼していた物が、今では面と向かって襲ってくる。
重箱の隅をつつく様に、有る事無い事で俺を追い詰めてくる。
俺が持っていた武器は、ここまで強力に相手を陥れていたんだな•••
この世の全てが俺を指差しているような気がしていた。
生きる気力は無くなっていた。
もういいや•••
そう思い、台所に立った時、気付く。
そうか、そうだな。
民意はいつだって誰かの味方で、誰かの敵だった。
まとめ

「民意」という言葉を使う奴に限って、「民意」を理解していない
配信をするのであれば、配信が続いているのか、切り忘れていないかは注意すべき
前提で、電波であろうがなんであろうが、人の物を勝手に使うべきではない
以上で、【怖い話】配信者の怖い話「民意」を紹介※眠れなくても責任取れませんを終わります。
コメント