あなたは怖い話は好きですか?
老若男女、一度は見たり聞いたりなど、怖い話に触れる機会はあるのではないでしょうか。
そんな中でも「ストーカー」は舞台としてはメジャーと言えるでしょう。
今回紹介するストーカーの怖い話「愛しの彼」です。
夜中に読むのはおすすめしません。何故なら、眠れなくなっても責任は取れませんから•••
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
他の怪談も気になるという方は、下記の記事を参照ください。
【怖い話】ストーカーの怖い話「愛しの彼」

季節は冬から春へと移り変わる。
気温が上がるのと並行するように、人々の心は弾み暖まる。
桜は色づき辺りに彩りを飾るように、人々の心は色彩を帯びる。
誰もの心が緩むだろう。
冬の寒さで悴んだ身体が、心が、温められて熱を取り戻す。
心に足が生えているというのなら、きっと浮き足だつという言葉がピッタリだ。
そんな季節に私だけが失意のどん底にいた。
まるで冬が続いているように。
吹雪く視界を更にモノトーンで表現するように。
私の心は冷たく凍っていた。
並行するように、身体から熱が逃げていく。
手足の先の方から感覚が無くなっていった。
もうこのまま眠ってしまおうかと思った。
そんな時、彼が私に声をかけてくれた。
暖かな彼の顔、声、仕草に、私の心は解れていく。
身体は感覚を取り戻し、心に、視界に色が塗られていく。
止まっていた。
目から流れていた大粒の涙が。
今まで拭き取るのもめんどくさくなっていた。
頬で乾いた涙の感触に不快感しか感じなかったのに、今では逆に心地よくも感じる。
出会いと別れの季節が早足で私にもやってきた。
失恋に落ち込んでいる私に、声をかけてくれたのが最初だった。
字面で表すと、なんともチープでありきたりな出会い方なんだろうと思う。
そんなありふれた出会いだったけど、私にはとても印象深いものがあった。
縁石にへたりこんで泣いている私に、彼はとても優しく声をかけてくれた。
まるで凍てついた心が太陽で少しずつ溶けていくように、私の表情も柔らかくなっているのがわかる。
引き攣っていた口角は上がり、寄っていた眉間は解け、しわくちゃだった顔に張りが生まれた。
一目惚れだった。
運命、という言葉を使えば、これまたチープに感じるけど、本当にそう思った。
私は勇気を出して彼に連絡先を聞いたのだけど、断られた。
元気をもらったのでお礼に•••と言葉を添えてみたけど、結果は変わらなかった。
彼は別れ際に「元気が出たのなら良かった」と言って立ち去った。
別れ際にまで元気をくれるのだから彼には頭が上がらない。
別れてから、彼のことで頭がいっぱいだった。
なんであの時間に出会ったんだろう•••?
仕事かな•••?
飲み会•••?
気晴らしに散歩•••?
もしかしたら、私のように辛い思いをして気分転換も兼ねて外に•••
なんて思ったりもしたけど、あんなに優しい顔ができるんだ。
多分違うかな。
考え出すと止まらなかった。
気づいたら、彼と出会った場所に立っていた。
いきなり声をかけるとびっくりすると思い、脇にしゃがみ彼を待つ。
歩いてくる彼は、スマフォを触りながらもしっかりと前を見据えている。
私はいつ声をかけようかと後ろでモジモジしていた。
なかなか連絡先を聞いたあの時のように勇気が出ない。
対面していない分声をかけやすい気もするけど、あの時は突然の出会いに心が•••そう、浮き足立っていたから。
そうやってモタモタしていると、彼は用事ができたのだろうか。急に走り出してしまった。
私は驚き一歩で遅れてしまう。
結局声をかけることができずに彼と別れてしまった。
それからも同じように彼と出会い、別れるを繰り返していた。
何度か繰り返すうちにいくつかわかったことがある。
彼は仕事帰りだということ。
遅くまで残業が続いているということ。
食生活はコンビニ中心になっているということ。
•••303号室に住んでいるということ。
彼のことを知るにつれ、もっと知りたくなってくる。
彼との関係を望んでいる。
でも、今日も声をかけることができず、私の心に生えた足は、浮き足だたずに地面を踏みしめていた。
どう声をかけようか•••と考えながら彼の背中を見つめる。
その時、気づいたことがある。
彼の足取りがいつもより重い。
気のせいじゃない。これだけ見てきたんだから。
体調が悪いのかもしれない。
仕事がうまくいかなかったのかもしれない。
身内に不幸があったのかもしれない。
考え出すと止まらない。
地面を踏みしめていた足が、浮いたのを感じる。
彼のことが心配でたまらなかった。
いつもは彼に合わせるように調整していたが、次第に歩調は早くなっていく。
彼の背中が近づいてくる。
もう少しで彼に手が届く。
その時、彼も歩調を早めた。
私は驚いた。
歩調を早めた、とは言ったけど、そうじゃなかった。
早めたとかそういう程度じゃなかった。
早すぎた。
私も同じように、いや、全力で歩いてみたけど、追いつけない。
それはもう競歩の体を様していた。
競歩から走りに変えようか、と悩んでいる刹那に彼は私の視界から消えた。
心に焦りが生まれる。
頭の中では、彼に対しての心配で埋め尽くされていた。
いつも遅くまで残業している彼。
コンビニ中心なら食生活は偏っているだろう。
今日に至っては、不調が前面に身体から滲んでいた。
悪い想像しか出てこない。
私は全力疾走に切り替えた。
彼が曲がった角の先に、彼が倒れていないことを祈りながら走る。
目に涙を浮かべながら、角を曲がった。
その時、私は強い衝撃を全身で受けた。
何が起こったのか理解できないまま、私は背後にあったのだろう縁石に身体を打ちつけた。
あまりの衝撃に身体がうまく動かせない。
身体が少しずつ冷えてきた。春といっても夜は冷える。
少し、視界がぼやけている。涙かな。
そんなぼやけている視界でも、彼を捉えることができた。
少し離れた位置で、私のことを見つめている。
彼は、私のことを心配してくれたのかもしれない。
少しずつ、私に歩み寄ってくれる。
彼は私に向かって何かを話している。
うまく聞き取れない。
必死に叫んでいるのがわかる。
心配しなくてもいいよ。今立ち上がるから•••
声が出ない。手足の感覚が、指先から無くなっていく。
彼の顔が月明かりでよく見えた。
あの時のような優しい顔で。
叫んでいて表情は変わっているけど、優しさは伝わってくる。
だって、彼の顔を見ると心が解れてくるのがわかるから•••
?•••どうしたの?
彼の顔が急に強張ったのがわかった。
大きく開いていた口は、閉じて変に歪んでいる。
優しく、くっきりとした目は、汚い物でも見るかのように淀んでいた。
表情は引き攣り、にじるように少しずつ私から距離を開ける。
どうして•••?
どうしたの•••?
•••どうなったの?
彼は私の視界から消えてしまった。
手足だけじゃなく、齧られるように全身の感覚が消えていく。
心を中心に、遠いところから齧られていく。
身体の冷えは加速する。
太陽が急に雲に消えた時のように、一気に気温が下がった気がした。
彼のことが心配だ•••この感情も冷たく凍っていった。
自分が削れていく。
自分が消えていく。
自分が無くなっていく。
明滅していく意識の中で、彼への想いも消えていく。
出会いと別れの季節が早足で私を駆けていった。
まとめ

誰でもいいわけではなく、何かきっかけがあり行為に及んでいる
妄想か•••偶像か•••想いは加速する
相手にとっては受け入れ難いその感情も、当人にとっては間違いなく本物だ
以上で、【怖い話】ストーカーの怖い話「愛しの彼」を紹介※眠れなくても責任取れませんを終わります。
他にも、【怖い話】ストーカーの怖い話「厳選4選!!」を紹介※眠れなくても責任取れませんという記事もあるので、興味がある方は是非ご一読ください。
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